地政学的変化は、社会科学の再編成を惹起する。冷戦体制のもとで近代化研究が進み、日本の高度成長によって日本研究から多くの魅力的概念が提示されたように、中国の大国化はさまざまな社会科学的な研究テーマを生み出し、新たな秩序形成の過程で新たな概念や分析枠組み、理論が作られつつある。中国モデルや北京コンセンサス論などは、その代表的なケースだが、政経分離を前提に日本や台湾との交流強化をめざす中国の姿は、新しい研究課題群を生み出しつつある。
台湾では「台商研究」と呼ばれる研究群が生まれ、中国大陸に渡った台湾人に関する総合的な研究がなされつつある。日本でも、ビジネスや留学、観光を通じた人的交流が盛んになっていることをベースにした研究群が生まれているが、その際、必ずしも比較研究が十全に行われているわけではない。1990 年代以降、中国への投資を加速化させている韓国や、アジアから少し距離を置いているドイツなどとの比較は、中国台頭のチャンスとリスクをどう見積もり、経済的にどのような関係を構築しようとしているかを考える、きわめて魅力的な研究テーマとなっている。
東洋文化研究所は、中央研究院社会学研究所と4年にわたる研究交流を続けてきたが、従来の共同ワークショップの共催から、より焦点をもった共同研究へとシフトし、中国との人的移動をめぐる国際共同研究を本格始動させたい。その成果は、所内でのワークショップや国際学会などで紹介されることになる。