東洋学研究情報センターでは、猪口孝教授を中心に、2003年から2008年までの6年間、アジア・バロメーターという名のアジア全域(東アジア、東南アジア、南アジア、中央アジア)を対象とした調査を実施してきた。2009年度には、各年度で異なるスキームで実施されたデータが統合データファイルとしてまとめられ、徐々に、このデータをもとにした仮説検証型の実証研究が進められつつある。もっとも、これらのほとんどは従来のディシプリンの思考枠組みにとらわれており、アジア研究の新地平を切り開くには至っていない。そこで本プロジェクトでは、従来、アジアを語る際に用いられてきたいくつかの理論的・理念的枠組みを脱/再構築することを試みる。
たとえば、1980年代後半の儒教資本主義論が華やかなりし頃、東アジアにおける発展の説明原理として「集団主義」「教育重視」「勤労重視」「家族主義」といったいくつかのキーワードが用いられてきたが、これらが実証的に検討されてきたとはいいがたい。その点、アジア・バロメーターには、これらの概念を操作的に定義した質問群が複数時点で用意されているため、これらの変数を軸にした時系列的・比較横断的分析が可能となっている。
勤労意識(岸)、宗教と経済行為(Froese)、教育アスピレーション(鴨川)、文化とアイデンティティ(中嶋)、市民社会と家族主義(李)、革新的比較研究(園田)といったキーワードで研究を進めている研究者を糾合し、新しいアジア像の構築を目指したい。