アジアの工芸については、漢籍の研究の一環として伝統工芸の現場がフィールドワークされたこともあったが、今日では学術的に研究されることが比較的少なく、特に人類学においては そうである。本研究は、アジアにおいて工芸の人類学を構想するための基礎研究をおこなおうとするものである。まず、初めに実際上工芸の技術や歴史においてつながりのあるアジアの島嶼部か らオセアニアまでを含めたアジアの工芸の人類学を構成する具体的な研究分野の総覧を作ることを課題とする。これには、個別の地域における研究の在り方を参考にした地域個別性を踏まえなく てはならないが、同時にアジア諸地域間の比較対照に耐える枠組みであることが必要である。こうした個別性と地域性を踏まえた枠組みを持った工芸の人類学を構想することは、変転の激しいア ジアにおける工芸の在り方、そしてほかでもない、その背後にある生活文化の変化の在り方を記述分析する方途を開発することになる。さらに、今日のグローパル化のもたらす大きな変化、アジ ア全域における人口の流動化、観光化とその影響などの外因をもよく検討するものでなくてはならない。こうした外部的な社会的・経済的文脈の変化は工芸にとっても、また社会にとっても、枢 要な意味をもつことは言うまでもない。