公募研究の採用実績

平成23年度東洋学研究情報センター共同研究課題採択一覧

  1. アジアの工芸の<現在>−工芸の人類学の基礎研究
  2. 国際的な米価高騰とインドシナ半島の稲作の変容に関する農業経済史
  3. 関野貞による東アジア文財写真の整理と分析
  4. 新しいアジア像構築の試み:アジア・バロメーターの再分析プロジェクト

アジアの工芸の<現在> 工芸の人類学の基礎研究

研究者

  • 神戸大学大学院国際文化学研究科・教授 窪田幸子(申請者)
  • 岡山大学文学部・教授 中谷文美
  • 南山大学人文学部・准教授 濱田琢司
  • 東洋文化研究所汎アジア研究部門・教授 松井健
  • 東洋文化研究所汎アジア研究部門・教授 池本幸生
  • 東洋文化研究所東アジア第二研究部門・教授 大木康
  • 東洋文化研究所汎アジア研究部門・准教授 名和克郎

研究期間

2年 (平成22~23年度)

課題の概要

アジアの工芸については、漢籍の研究の一環として伝統工芸の現場がフィールドワークされたこともあったが、今日では学術的に研究されることが比較的少なく、特に人類学においてはそうである。本研究は、アジアにおいて工芸の人類学を構想するための基礎研究をおこなおうとするものである。まず、初めに実際上工芸の技術や歴史においてつながりのあるアジアの島嶼部からオセアニアまでを含めたアジアの工芸の人類学を構成する具体的な研究分野の総覧を作ることを課題とする。これには、個別の地域における研究の在り方を参考にした地域個別性を踏まえなくてはならないが、同時にアジア諸地域間の比較対照に耐える枠組みであることが必要である。こうした個別性と地域性を踏まえた枠組みを持った工芸の人類学を構想することは、変転の激しいアジアにおける工芸の在り方、そしてほかでもない、その背後にある生活文化の変化の在り方を記述分析する方途を開発することになる。さらに、今日のグローパル化のもたらす大きな変化、アジア全域における人口の流動化、観光化とその影響などの外因をもよく検討するものでなくてはならない。こうした外部的な社会的・経済的文脈の変化は工芸にとっても、また社会にとっても、枢要な意味をもつことは言うまでもない。

国際的な米価高騰とインドシナ半島の稲作の変容に関する農業経済史

研究者

  • 東京外国語大学大学院総合国際学研究院・准教授 宮田敏之(申請者)
  • 敬愛大学国際学部・教授 高田洋子
  • 東洋文化研究所南アジア研究部門・教授 高橋昭雄

研究期間

2年 (平成22~23年度)

課題の概要

2008年、世界的に米価が急騰し、国際米市場は大きく混乱した。その背景としては、原油価格の上昇、地球温暖化による気候変動、バイオエネルギー用穀物栽培の拡大による食用穀物の不足など、長期的な要因があった。しかし、直接的には、主要米輸出国であるインドやベトナムが、天候不順やコメの国内流通の問題等により、米の輸出を規制し、これが、混乱の引き金となった。他方、フィリピンやエジプトなどの米輸入国では、輸入米不足への不安が広がって、米価が上昇し、社会不安も増大した。国際米市場が、極めて不安定な均衡の上に成り立っていたことが、明らかとなった。本研究は、こうした不安定な国際米市場の中で、世界有数の稲作地域であり、かつ、主要米輸出地域でもあるインドシナ半島において、どのような変化が起きているのか?について、農業経済史の立場から分析する。特に、米輸出価格が急騰した、米輸出世界第一位のタイ、90年代に急速に生産が回復して米輸出が復活したが、米輸出規制に踏み切らざるをえなかったベトナム、サイクロンによる被害から回復を目指すミャンマーを研究対象とする。第二次世界大戦後、これら三カ国の稲作と米輸出の歴史は、大きく異なる。しかし、インドシナ三大デルタの稲作地帯は、今後も、主要な米輸出地域として、国際米市場の中長期的な安定に重要な役割を果たすことが期待される。そこで、本研究は、第二次世界大戦後から2000年代に至る、およそ半世紀にわたるタイ、ベトナム、ミャンマーの稲作、米価格、米輸出経済の歴史的変化を踏まえ、現状と今後の課題を比較検証する。

関野貞による東アジア文財写真の整理と分析

研究者

  • 東京大学大学院工学系研究科・教授 藤井恵介(申請者)
  • 東京大学大学院工学系研究科・技術専門職員 角田真弓
  • 東洋文化研究所東アジア第一研究部門・教授 平勢隆郎
  • 東洋文化研究所画像技術室・技術専門職員 野久保雅嗣

研究期間

2年

課題の概要

  東京大学東洋文化研究所には、戦前関野貞による中国大陸調査に関わる写真資料が大量に存在する。アルバムに整理されたものだけでも3019点を数える。これらは、現在人間文化研究機構と東洋文化研究所が共同で実施している「近代日本文化財保護政策関係在外資料の調査と研究」による整理が進んでいる。これに対し、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻にも、大量の関野貞による中国大陸の文化財を撮影した写真資料が存在する。キャビネ版焼付けが約1000点、ガラス乾板が約4000点ある。ガラス乾板は、上記の共同研究においてデジタル化を進めつつある。
              ところが、いわゆるネガの形で存在する古写真資料は、デジタル化を進めると同時に、焼付け写真の状態で情報を確定し、長期保存に耐えるようにする必要がある。そして、それを研究者に提供し得る形にしておくのが、本来のあり方である。
  そこで、本研究は、上記共同研究と連携しながら、整理の成果を焼き付け写真と関連づけて、その分析を進めるものである。

新しいアジア像構築の試み:アジア・バロメーターの再分析プロジェクト

研究者

  • 東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営センター・特任助教 岸保行(申請者)
  • 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科・助教 鴨川明子
  • ハワイ大学マノア校社会学部・准教授 中嶋聖雄
  • 中央研究院社会学研究所・助研究員 李宗榮
  • 東洋文化研究所附属東洋学研究情報センター・副センター長、教授 園田茂人

研究期間

2年

課題の概要

  東洋学研究情報センターでは、猪口孝教授を中心に、2003年から2008年までの6年間、アジア・バロメーターという名のアジア全域(東アジア、東南アジア、南アジア、中央アジア)を対象とした調査を実施してきた。2009年度には、各年度で異なるスキームで実施されたデータが統合データファイルとしてまとめられ、徐々に、このデータをもとにした仮説検証型の実証研究が進められつつある。もっとも、これらのほとんどは従来のディシプリンの思考枠組みにとらわれており、アジア研究の新地平を切り開くには至っていない。そこで本プロジェクトでは、従来、アジアを語る際に用いられてきたいくつかの理論的・理念的枠組みを脱/再構築することを試みる。
  たとえば、1980年代後半の儒教資本主義論が華やかなりし頃、東アジアにおける発展の説明原理として「集団主義」「教育重視」「就労重視」「家族主義」といったいくつかのキーワードが用いられてきたが、これらが実証的に検討されてきたとはいいがたい。その点、アジア・バロメーターには、これらの概念を操作的に定義した質問群が複数時点で用意されているため、これらの変数を軸にした時系列的・比較横断的分析が可能となっている。経済(岸)、教育(鴨川)、文化(中嶋)、政治(李)、比較(園田)といったキーワードで研究を進めている研究者を糾合し、従来アジアを語る際に用いられてきた概念を実証的に検討するとともに、アジア諸国のグルーピングを行い、これらの理論枠組みの射程を検討したい。

平成22年度東洋学研究情報センター共同研究課題採択一覧