News

センターセミナー「映画から見る中東社会の変容 『イラン女子サッカー奮闘記』」が開催されました

報告

 2018年最初の第26回中東映画研究会では、ドキュメンタリー作品『イラン女子サッカー奮闘記』を取り上げ、明治大学の山岸智子教授にご解説頂いた。
 本作は、2008年にシンガポールの映像会社が制作し、日本でもBS放送で紹介された。イラン社会における女性の位置付けをめぐる諸事情を紹介しつつ、女子サッカーが遂げてきた目覚ましい発展と隘路を描き出した短編作品である。折しも、韓国冬季オリンピックが開催されているタイミングで、本研究会としては初めての「スポーツ」をテーマにした題材であった。
 講師の山岸教授より、本作を理解する上で重要な幾つものポイントが提示された。すなわち、女性たちの置かれた多様な状況や女子サッカーの歴史的経緯、ヘッドスカーフ問題、作品の中に登場する少女たちのその後の姿、さらにはフェイク・ニュースの問題である。
 作品では「イランの抑圧される女性像」が強調される設定になっていたものの、1979年のイラン・イスラーム革命以降、イランでは女子の高等教育への進学率は飛躍的に上昇し、女性の政治家や学者、ノーベル賞受賞者も輩出してきた経緯がある。こうした状況は、「権威主義体制下では女性の社会参加は期待できないだろうという」という国際社会の予想に反していたことから「イランのパラドックス」と称されてきた。
 イランでの女子サッカーの歴史は1970年代に遡る。イラン初の女子サッカーのクラブチーム「ペルセポリスFC」の古い写真では、女子選手たちはスカーフで髪の毛を覆うこともなく、短パンのユニフォーム姿で映っている。革命以降、長らく活躍の機会は奪われたが、1998年に国の正式なスポーツ競技と認められた。以降、様々な制約や社会の無関心にもかかわらず、女子サッカーはめきめきと頭角を現し、西アジア大会ファイナルにまで進出するようになった。現在のイラン政府は、麻薬対策・若者対策としてスポーツによる若者の育成を重視している。
 一方、ヘッドスカーフ問題は彼女たちを苦しめてきた関門であった。イスラームを基準としたユニフォームの着用を求めるイラン政府とヘッドスカーフを着用したままでの国際試合参加を認めようとしない国際サッカー連盟(FIFA)。両者の間で葛藤する女子選手たちは、国際試合参加の可否をFIFAの(時に政治的背景を伴う)判断に翻弄されてきた。
 こうした状況に記者会見を通じた抗議を行う等してきた女子選手たちも、その後はそれぞれの道を進んできたようである。コーチとして研鑽を積む選手、サッカーからフットサルに転じて活躍を続ける選手、結婚・出産を経てなおサッカーないしフットサルのプレーを続ける選手等、近年の写真も含めて紹介がなされた。なお作品中で、メンバーは地方出身が多く必ずしも富裕層ではない婦女子が多いとの説明があったが、外国生まれの選手がキープレーヤーとなっている、と山岸教授は指摘する。2008年制作の作品中では、「女性の写真掲載が不可」との理由から女子サッカーについての報道が少なく、社会の関心も低い、と説明されていたが、インタビュー記事とともに女子サッカー選手の笑顔の写真が雑誌の表紙を飾る等、変化もみられるようである。
 最後に重要な点として、ネット上での写真や記事の影響が挙げられる。「イラン女子サッカーの選手の中に男性が混じっている?」というフェイク・ニュースが英字紙や日本語のネット記事にまで出回ったことがあったが、この元の記事はサウジアラビア拠点の通信社「アル・アラビーヤ」の記事であった。事実も巧みに取り入れたこの種のフェイク・ニュースは、競技の環境やジェンダー・イメージの構築に否定的に作用しうるのではないかと懸念される。
 山岸教授からのご解説後、当研究会事務局のケイワン氏より、参考資料として配布してあったイランの女性に関する統計資料について補足説明がなされた。女子高等教育の飛躍的な伸びが確認されるが、こうした高学歴の女性の失業率の高さも大きな社会問題となっている。離婚率の統計も提示されたが、近年の離婚率の抜きんでた上昇率の高さに会場からはどよめきがあった。
 質疑応答の時間では、今後のイラン社会における女子サッカーの可能性、「イランのために戦う」という彼女たちの強いナショナリズムの対象である「イラン」とはどこのことか? なぜ女性はスタジアムに入れないのか? サウジでの女性のスポーツ観戦が可能になるという話は何かイランに影響を与えるのか?等、様々な質問がなされ、活気ある意見交換が行われた。
 研究会の締めにあたり、研究会顧問の長沢栄治教授より、「イランにおける女子サッカーという題材には、女性とイスラーム、そして近代という根源的なテーマが凝縮している」という旨の指摘があった。イランの女性の置かれた多様な状況とともに、「スポーツとナショナリズム」という普遍的な問題についても考えさせられる貴重な機会となった。研究会には、学生や研究者、一般市民から約40名が参加した。

(報告:中東映画研究会 井堂有子)

当日の様子

開催情報

【日時】2018年2月14日(水) 17:30~(17:00開場)

【会場】東京大学東洋文化研究所 3階 大会議室

【題材】
『イラン女子サッカー奮闘記』
2008年/シンガポール・OAK3 Films制作
ペルシア語・英語音声、日本語字幕

【テーマ】野心
 アジアのサッカー大国イラン。サッカー大好き少女も大勢います。しかし、国内では複雑な政局やイスラームの基準なるものに揺れ、さらには「メンバーに男が混じってる!?」と難癖をつける国際社会。サッカーボールをめぐって行き交う様々な希望と思惑。それでも世界の女子フットサル選手10人に選ばれるまでに成長した、イラン女子サッカーを通して、イラン社会とイランをめぐる国際関係を考えます。

【コメンテーター】山岸智子氏(明治大学・教授)


(クリックでPDF)

【主催】中東映画研究会

【共催】東京大学、東洋文化研究所附属 東洋学研究情報センター、東洋文化研究所班研究「中東の社会変容と思想運動」、日本・アジアに関する教育研究ネットワーク(ASNET)



登録種別:センター関連
登録日時:Fri Feb 23 15:51:18 2018
登録者 :長沢・後藤・藤岡
掲載期間:20180214 - 20190214
当日期間:20180214 - 20180214