本研究では宮内庁書陵部に収蔵する「図書寮文庫」中の漢籍を対象とし、日本伝来漢籍(以下「日本漢籍」と簡称)を要素とする蔵書群の形成と変転の過程を確かめ、蔵書研究の視点に立って、個別の伝本の文化史的意義を捉え直し、日本文化形成に対する日本漢籍の寄与を明らかにする。
図書寮文庫は、書陵部収蔵資料中の、公文書を除いた図書群であり、従来書陵部本と称する範囲にほぼ等しい。その中には公武の伝世資料を含み、特に江戸幕府紅葉山文庫本から明治期に抜き出された善本群には、中世以来の金沢文庫本、東福寺普門院蔵書といった、日本漢籍史上、最重要の蔵書に由来する資料を含む他、近世の江戸幕府や、高知山内家、徳山毛利家、佐伯毛利家等の好学の大名、幕府儒官の古賀家献納資料に、御所や宮家、公家の伝本をも加え、日本漢籍史の屋台骨と見るべき、複合的蔵書群である。
図書寮文庫本の書誌学的研究は目録解題の整備を中心に行われてきたが、1953年に刊行された『和漢図書分類目録』より68年を経て、各方面の研究も進捗し、内外の資料との比較研究の便宜は格段に向上した。そこでこの度は、伝本に対する基礎認識の再検討から始め、伝来過程とその脈絡に重点を置いた調査を加え、蔵書史という視座から、その意義を文化史的に総合することを課題とする。