カンボジア
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カンボジア王国大使館
Royal Embassy of Cambodia in Japan
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Cambodia Ambassade du Japon
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カンボジアへの留学について
小林 知

 私は、松下国際財団「松下アジアスカラシップ」などから財政的な支援を受け、1998年11月から2002年4月までカンボジアに滞在し、研究活動を実施しました。その後も、1年に1〜2度、短期の渡航を繰り返しています。以下では、私自身の留学体験を中心に、留学先としてのカンボジアの現状について情報をお知らせしたいと思います。しかし、外国人学生・研究者の留学先として、カンボジアは、本ウェブサイトに掲載された他の多くの国々とはずいぶん異なった状況にあります。


1. カウンターパートも復興の途上

 改めていうまでもなく、カンボジアは、1970年から1990年初めまでの20年余の間、内戦と国際的孤立、社会不安の渦中にありました。国際機関や諸外国の援助を積極的に受け入れて、その社会の復興に向けた活動が本格化したのは、カンボジア国連暫定統治機構(UNTAC)の支援による統一選挙が1993年に実現してからといえます。そのため、留学という目標を立てた後真っ先に問題となる、現地での受け入れ機関、カウンターパートにしても、大学をはじめとしたその組織自体が、近年急ピッチで陣容を整備・再編しつつある最中です。

 例えば、私が1998年末に現地へ赴いたとき、カンボジアには大学院の教育課程が存在しませんでした。その後、一応の受け入れ先は、プノンペン王立大学(Royal University of Phnom Penh)の社会学科に定めましたが、「大学側に規定がないから」という理由で、入学金や授業料も受け取ってもらえませんでした(話し合いの後、“寄付”として若干額を渡しました)。私の他、プノンペン芸術大学(Royal University of Fine Arts)、プノンペン農業大学(Royal University of Agriculture)、国立経営大学(National Institute of Management)などの大学機関で1999〜2004年にかけて留学生活を送った日本人大学院生の例においても、受け入れ態勢は規格化されておらず、交渉次第といった状況です。

 1999年、カンボジア王立学士院(Royal Academy of Cambodia)が設立されると、同機関に付属して大学院修士課程が設けられました。この機関が、今後のカンボジア留学の受け入れ先の中心になる可能性はあると思います。2004年8月現在、この学士院をカウンターパートとして留学生活を送っている日本人学生のケースでは、授業料は支払っておらず、個人的に受け入れをお願いした教官に随時会いに行き、必要があれば証明書の発行などをお願いしているとのことです。


2. 滞在ビザの取得は容易

 ところで、何をもって「留学」と呼ぶかは、カンボジアの場合一つの問題です。先述したように、カンボジアにおける大学院教育は2000年前後に始まったばかりです。よって、いわゆる研究活動を動機として現地に赴いても、大学教官の諸氏との交流は、人生の先達として、または現地社会の紹介者としてのつきあいが主であり、良い意味でも悪い意味でもアカデミックな刺激には乏しいかも知れません。しかし一方で、当地に寄留して学ぶという活動には、形式的な学問ディシプリンの枠にとらわれず、様々なタイプがあって良いと思います。とにかく、現地で滞在を始めることがスタートです。

 この点、まず問題になるのは滞在ビザの取得ですが、現在までのところ、カンボジア政府は、留学目的の特別ビザの発給を行っていません。私は、入国時に空港のイミグレでビジネスビザを取得し、その後自分で延長手続きを繰り返して長期滞在を終えました。延長は、首都のポチェントン空港の向かいにある内務省の入国管理局へ行き、日本の所属大学の在学証明書(英語)、助成財団からの奨学生証書(英語)、在カンボジア日本大使館のサポートレター(上記の二書類を踏まえ、留学目的で滞在する学生である旨の保証を述べたもの。英語)プノンペン大学社会学科長の署名入りのビザ発給願い(カンボジア語)、証明写真を提出し、所定の金額を支払って行いました。ほか、東京のカンボジア大使館で最初に3ヶ月の無料ビザを発給してもらい、それを私とほぼ同様の手続きで延長して過ごした方もいます。ただし、観光ビザで入国してしまった場合、NGOの職員などへ支給されるカンボジア政府の外務省管轄のビザを取得してしまった場合には、上記の延長手続きは使えません。

 自分で手続きをせず、プノンペンの主要なインターネットカフェや旅行代理店などにビザ延長の手続き代行を頼んで、留学のための滞在を続けている方の例もあります(また当然ながら、国費での留学生派遣制度を利用した場合は、個人でビザの延長を行う必要はありません)。2003〜2004年度では、1年間の延長で、280米ドルが値段の相場のようです。この場合、提出書類などは特に求められないと聞きます。

 結局、カンボジア政府は、2004年8月現在、外国人学生・研究者の「留学」という活動に対して、滞在許可の審査という点で一般のビジネスマンなどと区別した姿勢はとっていません。無関心であるともいえます。そして、この政府の無関心さは、滞在中の研究活動の許可申請をめぐる状況にも現れています。


3.調査活動の管理は未発達

 隣国のタイやヴェトナム、ラオスなどの例においては、長期留学を希望する外国人学生・研究者は、滞在許可の申請と同時に、滞在中の研究計画を文書としてカウンターパートへ提出するのが普通だと思います。しかし、カンボジアの場合は、カウンターパートとビザ発給審査を行う内務省の間の法的な関係性、連携が明確ではなく、実質上、外国人による国内の調査研究活動を、その計画時から審議する政府機関は存在していません。

 しかし、実際に研究活動を行う際には、許可申請が様々な場面で必要となってきます。私自身の事例では、農村で住み込み調査を実施する時、まずそれまで信頼関係を築くよう努力してきたプノンペン大学社会学科の学科長を通して、プノンペン大学学長氏の署名入りの調査計画書(カンボジア語)を作成しました。次に、それを州政府に持参し、副州知事氏に掛け合って署名をもらった後、郡役所において郡長氏の、区役所において区長氏の署名を集め、最終的に村落での住み込みを区長・村長ら地元の行政責任者に認めて頂きました。また住み込み開始にあたっては、行政区に駐留していた警察にパスポートの写しと、上記の手順を経て各行政責任者の署名が記された研究計画書の写し、証明写真を提出し、州警察本部への連絡を依頼しました。

 私の場合は、最初から一年以上の農村への滞在を見越した許可申請でしたので、考えられる限り最も詳細な手続きを踏むよう意識しました。実際、プノンペン大学の学長氏に調査計画書への署名と紹介文の作成を依頼した際には、署名と引き替えに、「調査中に万一事故が発生しても、プノンペン大学には一切の責任を求めず、全て自己処理する」という旨の文章を肉筆で作成し、提出するように求められました。しかし、1990年代後半から現在まで、カンボジアで調査活動を行った他の日本人学生の事例では、口頭で行政区長、郡長に許可を願ったのみといったケースも聞かれます。

 カンボジアでの滞在には現在も、外国人目当ての強盗や誘拐といった万一の事件・事故の可能性があると思います。そして万一の事態が起こった際には、地元の警察などに積極的な支援を期待することは難しいと思います。正直なところ、カンボジアで頭を悩ませるのは、調査申請の許可をいかに取得するかというより、現実的な社会・治安状況をいかに推し量るかという点にあります。外国人による調査活動を、国家の観点から管理しようという意識が薄い反面、管理と表裏一体であるサポートの体制も、非常に弱いといえます。


4. 個人責任による状況の見極め

 以上のように、カンボジアへの留学は、調査活動などは比較的容易に実現まで漕ぎ着けやすい反面、治安の不安といった実質的な問題が付きまといます。もちろん、多くの不確定要素から、実際の渡航後は、この他にも様々な問題が持ち上がってくるでしょう。安易に他人に頼らず、自己責任において自ら状況を判断し、活動を進めていく柔軟性が必要だと思います。

 私個人としては、このような状況のなかでも、カウンターパートとしての現地大学の教官、そして各地域で行政責任を負う役人氏との交流は大切にすべきだと思います。実際は、例えばビザ延長は旅行代理店に代行を依頼し、調査許可は口頭で済ませる、または既に存在するNGOの活動に参加する形で個人的な動機を表面化させずに遂行するといったケースでは、受け入れ機関のカンボジア人の先生方に紹介状や各種レターの執筆をお願いする必要もなく、関係は生じません。また、日本の大学院で必要とされる自分の学問スタイルと合わないからという理由で、現地の有識者との交流を積極的に行わない方もいます。

 しかし、このような知的搾取は、大いに疑問です。学生・教官との研究をめぐる意見交換は、たとえ拙いものであれ、「留学」生としての、現地社会に向けた最低限かつ最重要な貢献だと思います。最初に述べたように、カウンターパートも現在未だ復興の途上にあるというカンボジアにおいては、なおさらです。


5.留学生活についてのガイド

@ 下宿の見つけ方

 下宿の紹介屋というのは特になく、プノンペンの街を歩いていると其処此処に“For Rent”と英語の看板を見かけますので、適当に入っていって個人で交渉するのが良いと思います。家賃は、クーラー付の一部屋で一月100〜200米ドル、フラットを借り切るのなら400〜600米ドルでしょうか。長期滞在者向けにディスカウントを行うホテルもあり、一月400米ドル前後から見つけることが出来ます。

A 通信

 カンボジアでは、固定電話があまり普及していません。下宿を見つけても電話があるとは限りませんから、個人で携帯電話を購入し、契約するのがよいと思います。電話番号を取得する際に、就職先の証明書などの提出を求められる場合もありますが、カンボジア人の友人に代理で購入してもらうのも方法です。

 インターネットは、プノンペンやシエムリアップでは、街角のカフェで行うことが出来ます。現地プロバイダと契約し、携帯電話経由で接続環境を整えることも出来ますが、重たいファイルのやり取りにはストレスを感じます。

B お金の持参方法

 プノンペンの銀行に米ドルの口座を開設して、そこに送金してもらうのが安全だと思います。マレーシア、シンガポールなどからの外資銀行では、最低貯金額に制限が設けられている場合もあります。カンボジア資本のForeign Trade Bankなどではそのような制限もなく、口座開設は容易です。

C カンボジア語学習

 プノンペン大学の外国語センターで、外国人向けの授業に参加することが出来ます。一学期は約3ヶ月で、初級から上級までのレベルに受講者を分けて行います。授業料は約250ドルとのことです。ほか、個人的に家庭教師を探した場合は、一時間あたり5ドル前後の謝礼が相場のようです。

(2004年8月記)