イラン
在日公館
イラン・イスラム共和国大使館
Embassy of the Islamic Republic of Iran in Japan
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在外公館
Iran Embassy of Japan
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http://www.ir.emb-japan.go.jp/

留学ガイド:イラン
西村 淳一
はじめに

 現在のところ、イラン留学は下記のように分類されうる。
     A ペルシア語の語学研修を目的とする留学。
     B イランの大学に大学院生として留学。
     B−1 正規の修士課程・博士課程学生として留学。
     B−2 「研究生」として留学。
     C イランの大学・研究機関に招聘研究者(ないし共同研究者)として在籍。
     D イランの大学に学部生として留学。
 このうち最も多いケースは上記Aである。この場合、留学生はテヘラン大学の語学研修機関「ペルシア語研究国際センター」(通称:デフホダー)に籍を置き、4ヶ月〜1年程度の語学研修を受ける。
 一方、大学院修士課程修了者が現地でペルシア文学やイランの歴史を学ぼうとする場合は、上記B−1のケースで留学することが多い。この場合、留学生は他のイラン人学生と同様に(もちろんペルシア語で)講義を受け、かつ原則的には博士論文をペルシア語で執筆して留学先大学に提出する。従って留学期間は、語学研修期間も含めて数年の長期にわたる。
 B−2はごく最近出始めたケースである。イランの大学には基本的に「研究生」という身分は存在しないが、近年(名目上の身分はどうあれ)実質的に研究生として受け入れられるケースが出始めた。この場合、留学生は自分の研究を自由に行うことが出来る。(筆者は、2003年8月現在、テヘラン大学文学部歴史学科に「研究生」として在籍している。留学期間は2年の予定。)
 上記Cのケースは少々特異であるが、留学希望者が研究作業のみを目的とする場合はこのケースが一番望ましい。もちろん「招聘研究者」の身分を獲得するためにはそれなりの研究業績を重ねておく必要があろうし、加えて現地研究者との「ツテ」も必要になる。現実的には実現の難しい留学方法といえる。
 あまり知られていないが、イランの大学に学部生として留学すること――すなわち上記Dのケース――も可能ではある。筆者の知る限り、このケースで留学した者は未だ1人しかいないが、こういう方法も取りえるということをお知らせすべく、あえてここに挙げることにした。
 以下では主に、語学研修目的の短期留学ケース(上記A)と2年以上の長期留学ケース(上記B・C)の2パターンを想定して、手続き等の案内を行うことにする。


T.日本出国までの手続き

1: 現地研究機関発行の招待状の取得

 短期留学の場合であれ、長期留学の場合であれ、ヴィザ発給には現地研究機関の招待状/受け入れ受諾書が必要になる。(3ヶ月以内の調査旅行であれば、招待状は必要ない。)
【短期留学の場合】
 デフホダーからダウヴァトナーメ(「招待状」)を得ようとする場合は、基本的には、在 京イラン大使館備え付けの専用申請フォームに必要事項を記入し、「パスポートのコピー」「大学の在学証明書」「教官(ペルシア語ネイティブが望ましい)の推薦状」などとともに大使館へ提出する、ないしはファックスで直接デフホダーに送付する。その後は大使館/デフホダーに現地の手続き状況を確認しつつ、招待状の到着を待つ。ただし、上記作業を行っても招待状を確実に得られるとは限らない。いや、むしろいつまで経っても得られないことの方が多いようだ。そこで、より確実に得ようとするならば、
 ○ デフホダーにツテのある研究者に推薦状を執筆していただく。または
   交渉を仲介していただく。
 ○ デフホダーに在籍している日本人留学生に、現地の手続き状況を追跡・
   確認してもらう。
等の作業を行うべきである。
 希望者本人が現地へ行って直接手続きを行うという手もあるが、推薦状を持たずに行くと拒否されるケースもあるそうで、あまりお勧めは出来ない。
【長期留学の場合】
 現地の大学に院生あるいは学部生として入学を希望する場合は、「大学/高校の成績証明書(日本外務省の承認印が必要な場合もある。)」「大学学部長、指導教官等の推薦状」「留学希望者の研究内容を説明した書類(研究計画・レジュメ・論文など)」「経歴書」「健康診断書」など(いずれも英文)を準備する――必要書類については必ず在京イラン大使館へ確認すること――。それらをイラン大使館に提出し、受け入れ受諾書の到着を待つ。ただし、大使館経由の手続きは完了までに相当な時間がかかる──少なくとも 半年以上はかかるであろう──ので、時間に余裕を持って手続きを行い、かつあせらず 気長に待つことが必要である。
 もし、留学希望者が現地で直接留学手続きを行えば(あるいはその代理人が現地で手続きを行えば)、よりスピーディーに手続きを完了させることが出来よう。テヘラン市内北部ダルバンドにあるエマーム・ホメイニー国際大学事務局へ出向き、入学を希望する旨を 伝えた上で上記書類を提出する(その際、証明写真を忘れずに)。イランではエマーム・ホメイニー国際大学が留学生の管理を一手に行っており、留学希望者の書類は通常そこから高等教育省→各大学へと送られていくのである。ただし書類を提出しただけで安心してはいけない。イランでは書類が「紛失」することが間々あるからだ。書類提出後も各機関へ出向き、自分の書類の所在を追跡調査するのが手続き完了への近道である。このような現地手続きにより、早ければ3ヶ月ぐらいで受け入れ受諾書を取得出来るであろう。
 なお、留学希望者が「大学間交流協定」を利用する場合、受け入れ受諾書をより取得しやすくなる。例えば、東京大学や東北大学の学生は協定先のテヘラン大学に留学生とし て受け入れられやすい。この点の詳細に関しては各大学の学生課あるいは国際交流課に問い合わせること。また、留学希望者が「文部省アジア諸国等派遣留学制度」を利用する場合は、日本の文部省および外務省が取得手続きを支援してくれるので、比較的容易に取得することが出来る。

2: ヴィザ申請
 在京イラン大使館にて、大使館側から指示される手続きを行うことによって、ヴィザが発給される。必要な書類(英語かペルシア語で執筆)は以下の通り。
  ○ 渡航理由等を記したヴィザ発給申請書(イラン大使館の公式フォームを利用)
  ○ 現地研究機関の招待状/受け入れ受諾書(上述)
  ○ パスポート
他の書類が必要になる可能性もあるので、申請前に必ず大使館へ確認のこと。ヴィザ発給自体はそれほど時間のかかるものではない。手続きを完了させれば、1週間程度で発給されるであろう。
 なお、在京イラン大使館で発給されるヴィザは短期留学の場合であれ長期留学の場合であれエントリーヴィザ(3ヶ月有効)である。従って、留学生自身が現地でヴィザの延長手続き、ないし滞在許可(エガーマト)取得手続きを行う必要がある。(ちなみに観光ヴィザ(1ヶ月有効)で入国した場合は、エントリーヴィザやエガーマトへの変更が基本的に許されないため、最長3ヶ月しか滞在出来ない。留学生は必ずエントリーヴィザで入国すること。)


U.現地到着後の手続き

1: 大学・研究機関との交渉

 長期留学の場合――特に「研究生」として留学する場合――に限って言えば、たとえ留学前に現地研究機関の受け入れ受諾書を得ていたとしても、それで全ての手続きが終わったわけではない。渡航後、受け入れ条件などをめぐって大学事務局、学部学科長などと直接交渉することになる。筆者の場合は、渡航後に日本の大学学部長の推薦状を提出するよう要求され、手続き完了までに3ヶ月の時間を要した。このような事後手続きは各留学生によってケース・バイ・ケースであろう。この場で言えることは「各人が強い決意をもって粘り強く作業を行わねばならない」ということである。

2: ヴィザの延長/エガーマトの取得
【短期留学の場合】
 エントリーヴィザ(3ヶ月有効)を延長する。基本的には3回延長することが出来――場合によっては2回しか出来ないこともあるが――、最長1年の滞在が可能である。延長手続きは全てデフホダーの事務局が行ってくれる。ただし、最近デフホダー内部で日本人留学生の評判が落ちており、日本人留学生のヴィザ延長時には教官による面接が行われるそうである。

【長期留学の場合】
 エガーマト(「滞在許可」一年有効)を取得する。方法は3つ。
  A 所属する大学・研究機関の事務局へ依頼する。
  B ダルバンドのエマーム・ホメイニー国際大学事務局(前述)へ依頼する。
  C ヴェザーラテ・オルーム(「文部省」)で関係書類を入手した上、ヴァリーアス
   ル広場北部のニールーイェ・エンテザーミー(「治安警察」)オフィスへ行き、
   エガーマトの取得手続きを行う。
Cの方法では、全ての手続きを留学生自身が行うことになるが、数日で取得可能である。一番容易な方法はAであり、2週間程度で取得可能である。なお、一度エガーマトを取得してしまえば、同様の方法によって容易に更新を行うことが出来る。

3: その他
【在留届】
 日本国籍の保有者が3ヶ月以上イランに滞在する場合、その滞在者は在イラン日本 大使館に在留届を提出しなければならない。留学生もその例外ではない。大使館領 事部で、フォームを受け取り、記入・提出すること。
【授業料】
 デフホダーに通う場合は、授業料を支払うことになる。デフホダーのホームページによれば、1タームにつき1,000ドル支払わねばならない場合もあるらしい。しかし現実には、高くとも500ドル程度の支払いで許されているようである。この点は極めて流動的なので、出来れば現地の留学生に確認すること。
 一方、長期留学の場合、大学への授業料支払いはケース・バイ・ケースである。高額な金額を支払う場合もあれば、一切払わなくてよい場合もある。なお、テヘラン大学文学部バフシェ・ハーレジヤーン(「外国人別科」)――ペルシア文学専攻の留学生が在籍する研究科――は、これまで授業料を徴収していなかったが、近い将来有料になるとのことである。
【学生証】
 留学生が大学に籍を置く場合、大学事務局への申請を通して学生証を取得することが出来る。この学生証、身分証明書としての機能はもちろんのこと、図書館の利用や観光地の入場料割引にも利用でき、大変有用である。


V.現地情報

1: 生活情報

 最初に断っておくが、下記に示す具体的な金額は2003年8月現在のものである。(イラン経済はここ数年インフレ傾向にあり、年々物価が上がっている。)
【住居】
 3ヶ月程度の滞在であれば、ホテル・安宿に連泊することも可能であろう。中級ホテルであれば1日20〜30ドル、メフマーンパズィールと呼ばれる安宿であれば1日5ドル〜10ドルで泊まることが出来る。半年以上の長期滞在であれば、大学寮(ハーブガーフ)に入るか、自分で不動産屋をまわって条件の良い部屋を賃借りすることになる。
 テヘラン大学の場合、大学事務局に大学寮入寮を希望すれば入居手続きを行ってくれる。家賃は非常に安く、大学から近いので便利であるが、相部屋になることが多いため研究活動には不向きと言われている。
 イランで部屋を賃借りする場合は、通常1年単位で賃貸契約を結び、最初にある程度のお金を大家へ預けることになっている。この前金および前金システムを「ラフン」という。「ラフン」として預けられたお金は銀行に預けられ利息を生み出す。この利息から家賃の一部が支払われる。従って、「ラフン」をいくら預けるかによって、月々の家賃が異なってくる。例として筆者の賃貸状況を記すと、2部屋+キッチン・バス・トイレ、電気・ガス・水道・冷房完備の物件で、2,500ドルを「ラフン」として預け、月々約120ドルを家賃として支払っている。物件にもよるが、例えば12,000ドル程度のお金を最初に預けると、月々の家賃がタダになる場合がある。もちろん、テヘラン市内のどこに住むか、またどの程度の広さの部屋を借りるかによって家賃は異なってくる。上に挙げた筆者の例は比較的安めであり、通常はもう少しお金がかかると考えておいた方がよい。また家具類  の購入費用も計算に入れておかねばならない。
 仮に「ラフン」なしで家具備え付けの部屋を借りようとすれば――そういう物件は少ないのだが――、最低でも月々400ドル、普通は500ドル以上の家賃を払うことになるだろう。デフホダーに通う学生は、滞在期間が1年以内と短いため、基本的には「ラフン」を預けることなく部屋を賃借りする場合が多い。ただし、そうなるとどうしても家賃が割高になってしまうため、「友人同士で部屋をシェアする」あるいは「ホームステイする」などの工夫をこらしているそうである。
【光熱費】
 相当安価である。筆者の場合、1ヶ月のガス代・水道代・電気代の合計は10ドル以下である。
【通信】
 国際電話は自由にかけられる。街中で売られている「国際電話カード」を利用して国際電話をかけると、IP通話なので通話料が格段に安くなる(日本への通話で10分1.5ドル程度)。
 インターネット環境は日本と比べれば遅れている。パソコンは現地で購入することも出来るが、日本から持参すると何かと便利である。ネットへの接続はダイヤル回線を用いる。長期契約用のプロバイダは存在するものの、「インターネットカード」を用いる方がより一般的である。10時間ネットを利用できるカードが、1枚4〜5ドル程度で売られている。
【生活費全体】
 筆者の生活においては、一ヶ月当たり400〜500ドルで、全ての支出をまかなうことが出来ている。

2: フィールド調査に関して
 イラン国内で各種調査を行うにあたっては、所属機関発行の身分証明書、および大学教授、研究機関の長、在京イラン大使館等の紹介状/推薦状を準備することが望ましい。
【図書館】
 イランの大学に所属している留学生は、基本的にイラン国内の図書館を自由に利用できる。また留学生でなくても、日本における身分証明書、および所属機関の紹介状(例えば大学図書館発行のもの)を用意すれば、図書館の利用は可能である。写本調査もかなり自由に行うことが出来る。ただし文書類(ワクフ文書、外交文書等)は図書館以外の施設に保存されていることも多いので注意が必要である。(イランにおける写本の所蔵状況に関しては、World Survey of Islamic Manuscripts, vol.2, London, 1992, pp.455-551.を参照のこと。)

【遺跡、建築物】
 一般に公開されているものであれば自由に見学することができる。ただし本格的な調査を行う場合は、現場での無用な混乱を避けるため、サーズマーネ・ミーラーセ・ファルハンギー(「文化財保護局」)あるいはサーズマーネ・オウガーフ(「ワクフ局」)の許可を得ておくべきである。
【アンケート調査・聞き取り調査】
 基本的には自由に行えるものの、内容が政治・思想・宗教などに触れる場合は、治安当局との間に問題の生ずる可能性がある。可能であれば在京イラン大使館に調査内容を相談し、紹介状/推薦状を得ておくべきである。イラン国内においては、ヴェザーラテ・ファルハング・オ・エルシャーデ・エスラーミー(「文化・イスラーム指導省」)に許可を求めた方がよい。また、例えば大学構内でアンケートを行う場合は、当然ながらその大学の許可が必要になる。

おわりに
 蛇足ではあるが以下の助言を書き加えておく。
 ○ イランへの留学は、当然ながらペルシア語の語学力を必要とする。イランで
   は、ペルシア語会話が出来なければ、生きていくことさえ難しい。留学前に
   少しなりともペルシア語語学訓練を受けておくようお勧めする。
 ○ 知り合いにイラン留学経験者がいる場合は、ぜひその方に留学時の話を
   聞いておくこと。また必ずイラン大使館で情報を集めておくこと。
 ○ イラン人は人と人とのつながりを大切にする人々で、手続きには人脈がも
   のをいう。いかなる場合であれ、それなりの人物から推薦状/紹介状をい
   ただいていれば、事はスムーズに運ぶ。「ツテ」を頼りにすることを躊躇って
   はならない。
 ○  以前から言われていることだが、イラン留学はケース・バイ・ケースであ
   る。定められた留学手続きが存在しているわけではなく、百者百様の留学
   方法がある。上記はあくまで筆者の経験・伝聞に基づいた記述であって、
   その通りに事が進むとは限らない。「様々な手段」を尽くして、実りある留学
   を勝ち取って欲しい。

【関連サイト】
奨学金関連
http://www.aiej.or.jp/study_j/scholarships.html
在京イラン大使館
http://www2.gol.com/users/sjei/
テヘラン大学
http://www.ut.ac.ir/
デフホダー(The International Center for Persian Studies)
http://www.ut.ac.ir/faculties/persian-studies/index.htm
在イラン日本大使館
http://www.ir.emb-japan.go.jp/
イラン全般の情報(リンクが充実)
http://www.moji.gr.jp/iran/
イラン留学経験者のページ
http://homepage3.nifty.com/saeed/


(本文執筆に当たっては、多くの方々からご助言をいただきました。末尾になりましたが、この場にて厚くお礼申し上げます。)

追加情報 ――以下、本文執筆後に得られた情報を掲載する――

(1)    在京イラン大使館にヴィザを申請する際、大使館ホームページを通して、ネット上から「ヴィザ発給申請書」フォームを入手することも可能である。このフォームに英語ないしペルシア語で必要事項を記入するのだが、下手にペルシア語で記入するよりは英語で記入した方が手続きはスムーズに進むようである。