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センターセミナー「映画から見る中東社会の変容 (『少女ヘジャル』)」が開催されました

報告


  今回の研究会では、ハンダン・イペクチ監督の『少女ヘジャル』(2001年、トルコ)を題材とした。トルコで長らくタブー視されてきたクルド人問題を正面から取り上げた本作は、トルコ国内で論争を巻き起こした。独自の言語や文化的伝統をもつクルドの人びとは、トルコ国内で少数派として政治的・社会的に疎外されてきた。『少女ヘジャル』でも、クルド語の使用が公には憚られていた状況や、出自を伏せながら生きる人びと、そして、周縁的な存在として貧しく苦難に満ちた日々を送る人びとの姿が描かれていた。イペクチ監督はこの問題を社会問題の一つして位置付けることで、トルコ、クルドどちらのイデオロギーにも与しない形で描ききっていた。
  本作のあらすじはこうである。判事を引退したルファトの家に、ある日のこと、孤児になったクルド人の少女ヘジャルが迷い込んできた。堅物で頑固なルファトと、彼に負けず偏屈なヘジャルとの奇妙な共同生活が始まった。ヘジャルはトルコ語を解さず、ルファトはクルド語などわからない。老人と少女は、声色や身振りで感情をぶつけ合い、軽蔑を隠さない視線を送り合う。しかし、日が経つにつれ、笑顔も見られるようになり、二人が互いを認め合う場面も増えてくる。それでも、二人のあいだの「見えない壁」はなかなか崩れない。
  本作が生まれた背景について、コメンテーターの今井宏平氏(日本学術振興会特別研究員、現代トルコの外交・政治が専門)は、トルコ国内のクルド人をとりまく政治的状況の変化に着目しつつ解説を行った。1978年のクルディスタン労働者党(いわゆるPKK)の発足を皮切りに、トルコからの分離独立を目指すクルド人による武装闘争が激化したが、1980年代から1990年代にかけて、クルド系の人びとが政治的発言力を得る中で、少しずつ、政治的な対話も行われるようになった。そのことを念頭に本作に目を向けるとき、世俗的な新聞を読み、ラクを好む元判事の主人公ルファトは「トルコの世俗主義エリートの象徴」であり、未就学のクルド人少女ヘジャルと彼のやり取りは、トルコにおけるクルド問題の近年の状況を象徴的に描いているように見えるという。また、この作品がつくられた2000年代前後は、トルコ国内で、一人暮らしの高齢者や彼らが抱く孤独感や不安感が話題になっていた時期であり、そうした社会問題にも目が向けられているのではないかという示唆もあった。
  イペクチ監督とのインタビュー経験のある景山氏(日本イラン文化交流協会)からの映画製作に関する情報提供をはじめ、今回も大学・大学院生や一般の方々から、多くのコメントや質問が寄せられた。40人ほどの参加者とともに、大変充実した会となった。(報告:後藤)

当日の様子

開催情報

【日時】 2015年6月24日(水)17:30-

【場所】 東京大学 東洋文化研究所 3階 大会議室
※エレベーターを出て正面の部屋です

【コメンテーター】 今井宏平氏(日本学術振興会)

【題材】
『少女ヘジャル』
トルコ、2001年
監督:ハンダン・イペクチ
トルコ語・クルド語音声、日本語字幕

【テーマ】「直面」
 判事を引退した堅物ルファトと、トルコ語を解さないクルド人の少女ヘジャル。
「靴!」、「海!」、お互いに言語を譲らない二人は、本当に「出会う」ことができたのか? 
幾重にも絡まった蔑視と軽蔑を乗り越えて、老人と少女は感情をぶつけあう。
クルド語の使用が公に憚られたトルコの社会で、2人は何を見たのだろうか。
 本研究会ではこの作品を通して人びとが「直面」してきたものについて考えたい。

【主催】 中東映画研究会

【共催】 東京大学・東洋学研究情報センター・セミナー, 東文研・班研究「中東の社会変容と思想運動」



登録種別:センター関連
登録日時:TueAug1814:28:332015
登録者 :長澤・後藤・酒井・藤岡
掲載期間:20150624 - 20160624
当日期間:20150624 - 20150624