テヘラン:書店ガイド  

森嶋  聡
【はじめに】
 
 テヘランの書店は、テヘラン大学正門に面するエンゲラーブEnqelab通りに集中しており、正に本屋街という言葉が相応しい状況にある。各書店はそれぞれ得意分野を持っており、その一つ一つを一日でまわるのは無理な話である。地図では、ピンク色に塗られた街区がそれにあたる。そこでエンゲラーブ通りの書店については、研究者にとって有用な数店に絞って紹介し、エンゲラーブ通り以外にある書店に重点を当ててみたい。
 地図については、通り名はゴシック体、書店名・政府機関・図書館・博物館等は、イタリックのゴシック体で示した。転写は、適当なフォントが手元にないため、長母音もアレフ・マッダとハムザの区別も行っていない。研究者にとって関係すると思われる機関は、緑色で強調した。また通り(khiyaban)については、不必要と思われる地区は省略してあるため、実際の状態とは異なる。小路(kucheh)については、特に必要と思われる一部地区に限り記入した。


【買い物をする上でのポイント】

@ 時間

 中東地域全般に言えることかもしれないが、書店は、しばしば午後一時閉店となり、夕方以降開店となるので、午前中に出かけるのが良いだろう。また木曜日の午後も閉店となる場合が多いので、土〜水曜日に出かけるのが良いだろう。

A 値引き交渉

 イランの場合、書籍で値引き交渉するのはあまり一般的ではない。もちろん、古書の場合は時価なので、店主の人柄が良ければ値引き交渉にも応じてくれるが、高額でもない本を1冊、2冊買って交渉するというのは、無理な話である。

B 交通

 まとめ買いをすると、持ちきれなくなることもあるが、その場合は「ダルバストdar-bast(貸切)」でタクシーを利用すると良い。エンゲラーブ通りはタクシーが多く走っているが、ダルバストしたい時は、乗客の乗っていないタクシーに声をかけなければならない点に注意したい(老婆心ではあるが、トラブル防止のため乗車前に値段交渉をした方がよい)。
 バスは大変安価で便利な交通手段であるが、行き先がわからないと使いようがない。わからない時は、遠慮せずに周りの人に聞くと良い。誰でも快く対応してくれるはずだ。バスのチケットは大きな広場で販売されている。
 テヘランの生活に慣れてくると、乗り合いタクシー(サヴァーリー)savariも便利な交通手段となる。バスより高いが、ダルバストよりずっと安い。ただし、これもバス同様、路線があるので、利用に当たっては事前に把握しておく必要がある。これについても周りの人に尋ね、情報収集しておくと良い。動いているタクシーに乗車する時には、視線があった運転手に自分の行先を大声で伝えるのが基本である。
 最後に経費はかかるが最も安全で快適な方法も紹介しておく。それは、宿泊先近くにあるアジャンスazhans(テレホンタクシー)を利用することである(くれぐれもホテルのタクシーは利用しないように)。往復で利用し目的地に到着した後も、近くに待たせておき、買い物に専念するわけである。安全性を考えると、特に女性の研究者には推薦しておきたい。もちろん絶対の安全など存在しないので、常に気をつけることが大事である。

C 国際郵便

本を大量に購入すると、郵送する必要も出てくる。これが苦労する。日本と異なり小さな郵便局は、1kgを超える重量物の国際郵便には応じてくれない。そこで、大きな郵便局へ向かうことになるが、郵便局ごとに対応が微妙に異なる。また一度に大量の本を送ると、郵便局に留め置かれたりすることもあるので、期間をかけて小出しに送る必要もある。陸送zamini(日本でいうところの船便)は安価だが、これを利用すると輸送中手荒に扱われるため、手元に届く頃には二目と見られない姿になってしまう。値段は高いが、航空便を利用すべきである。
 郵便局では、本の中に異物が入っていないか入念にチェックされる。続いて、専用のダンボール箱が用意される。箱詰めは係員が行うが、入りきらないものは、持ち帰ったほうが良い。無理に詰めてもらうと、輸送中にダンボール箱が崩壊して中身の本が傷んでしまうことになるからである。箱詰めがおわると更に袋に詰められ鉛環で封印される。この段階で料金を支払い終了となるが、手元に届く前に税関が再度検査するようである。
 個人経営の書店では、郵送も同時に行ってくれるところもある。自分で郵便局へ行くより高くつくかもしれないが、彼らに送ってもらうと不思議と綺麗な状態で届くことが多い。これは金額には変えられない魅力といえる。郵送手段の選択肢の一つとして考慮に入れて良いだろう。なお、ここ数年、航空便の郵送料は値上がりする一方で、現在では書籍の購入費と郵送費はほぼ同額か、郵送費が若干上回る位に考えておくと良いだろう。

なお、地図では、中央郵便局(Edareh-ye Koll-e Tajziyeh-ye Sherkat-e Post)を示した。エンゲラーブ広場よりカールギャル通り南方向、キャマーリー通りとの交差点に位置する。ただし、イランの通りは真っ直ぐ直線であっても、そこに到達できるとは限らない。途中で一方通行になっている場合や、封鎖されている場合が間々ある。現時点でどうであるかは不明であるが、筆者の滞在期間中において、カールギャル通りはまさにその状態であった。



【書店情報】
タフーリー Tahuri
 
 エンゲラーブ通りの書店へ行くなら、最初に向かうべき店はここであろう。歴史、文学、詩、伝記など様々な本を出版する書店。店の間口は狭いが、中二階部分にまで設置された本棚に人文科学系の学術書を豊富に取り揃える。流通中の書籍を買い求める際は、まずここの店員に聞いてみると良い。国民図書館Ketabkhaneh-ye Melliや文化遺産協会Anjoman-e Asar o mofakher-e Farhangiの出版物もここで入手できる。まとめ買いをすると、値引きにもそれなり(端数切捨て等)に応じてくれる。購入後の返品には応じないが、落丁等の交換には快く対応してくれる。
 余談になるが、ここの店員の記憶力には脱帽する。書名を言えばたちどころに取り出してくるその動作にはいつも感心させられるが、それ以上に驚くのは、客の顔を実によく記憶していることである。


フワーリズミー Khuwarizmi
 
 専門的に哲学や思想論などを出版。店内には豊富な書籍を取り揃える。タフーリーのように狭くないので、書棚に向かいながらじっくりと吟味することができる点が魅力と言える。まとめ買いには、それなりの対応を取ってくれる場合がある。



アースターネ・ゴドセ・ラザヴィー Astan-e Qods-e Razavi
 
 マシュハドのイマーム・レザー廟の同名のワクフが運営する書店。イスラム学に関する書籍や辞書をはじめとして、歴史学、地理学等の専門書を出版している。店内は広く、品数も豊富である。入店の際、カバンを預ける仕組みになっているが、そのままの場合もある。カバンと現金を別にしなければならないことに不便を感じる。会計にPOSシステムを使っているので、値引き交渉は不可。


テヘラン大学出版 Entesharat-e Daneshgah-e Tehran
 
 エンゲラーブ通りから16Azar通りに入ったところにある。テヘラン大学の出版物・博士論文等はここで入手できる。


バーザールチェイェ・ケターベ・サファヴィー
Bazarche-ye Ketab-e Safavi(Pasazh-e Safavi)

 エンゲラーブ広場からカールギャル通りを北へ向かい、進行方向右側バス停が立ち並ぶ付近にあるビル。古書店のコンドミニアム。思わぬ掘り出しものが見つかる可能性大。目的の書籍・雑誌が見つからなくても、店主によっては探してくれる場合もある。頻繁に通って、なじみになっておくと良い。2階の角にあるメフル書店Ketabforushi-ye Mehr / Mehr Book shopは、とある理由で日本人の客は優遇されることを付け加えておこう。


ギーターシェナースィー Gitashenasi

 エンゲラーブ通りから多少外れるが、パルケ・ダーネシュジューPark-e Daneshju近くにある地理学専門の出版社。地図が入用の際はここへ行くとよい。更に詳細なイランの地図が必要な時は、国土地理院にあたるSazeman-e Joghrafiya'i-ye Keshvarへ行くことになるが、こちらは欠本増刷待ちで、一度の買い物で済まない場合もある。


ラーレホテル内の書店(エヴィン・ブックショップ)
 
ラーレホテルHotel-e Lalehは、パルケ・ラーレPark-e Lalehのファーテミー通りKhiyaban-e Doktor Hoseyn Fatemiに面する角地にあるが、その地上階に大変小さな書店がある。ここの最大の魅力は欧米の書籍が入手できることにある。アマゾンのサービスが利用できないイランでは、欧米の書籍が入手しにくい。望みの書籍があるかどうかは運任せだが、長期留学中の研究者には、大変重宝する書店といえる。一般論になるが、この手の個人経営で従業員を使わず、店主一人で経営されている小さな書店のなじみになることは、研究者にとって大変恩恵をもたらす。彼らはイランの出版業界ネットワークに通じており、顔なじみになれば思わぬ情報を教えてもらえるからである。